設立趣旨

福岡県うきは市の新川田篭地区には,日本棚田百選に選ばれた「つづら棚田」や国指定重要文化財の「平川家住宅」,重要伝統的建造物群保存地区に選定された伝統的民家群などの優れた文化的資源が数多く存在し,魅力的な地域景観をつくり出しています。新川田篭地区は,全国的にみてもたいへん貴重なエリアです。

一方で,新川田篭は他の山村同様,過疎高齢化の問題を抱えています。それによって地域の担い手が減り,棚田や茅葺民家などの「環境資産」も維持が難しくなっています。この状況は今後さらに深刻化していくことが予想されます。

地域衰退の危機を乗り越えるカギは,実はこれらの「環境資産」を活かしていくことにあると私たちは考えます。今後この地域が継続していくためには,地域外の経済や人的資源を得て地域の活力としていくことが必要です。その手掛かりは,来訪者を魅了するこの地区の棚田や茅葺民家や山村景観といった「環境資産」にあります。

そのような「環境資産」を護り育てていくにあたっては,まずその価値を正しく理解することが大切です。また,環境資産はもともと生活や生産と一体となって維持されてきたものなので,単なる文化財として固定的に保存することはできません。持続のためには,「営み」を形成していく必要があります。さらに,地域内外に情報発信し,課題の共有と活動への協力・参加を募ることも必要となってきます。このNPO法人では,自治体や地域住民との連携のもと,そのような地域の持続再生に向けた活動に取り組みます。

また,棚田や民家群といった環境資産の持続が困難な状況は新川田篭に限ったことではなく,わが国の多くの地域が抱える課題です。この活動で得られた知見を広く発信することによって,そのような地域の環境資産保全の一助となることを望むものです。

 

2019年10月

RAS研究会理事長 九州大学教授 菊地 成朋

 

設立の経緯

この法人設立の母体となった九州大学人間環境学府菊地研究室は,これまで17年あまりにわたって,この地区の集落や民家の研究に携わってきました。また,うきは市の要請により,重要伝統的建造物群保存地区申請の際の報告書執筆や,同時期に取り組まれた文化的景観事業にも協力しています。

並行して,地域での実践活動にも取り組み,姫治小学校との協働で,民家(2004年度)や棚田(2010年度)をテーマにした小学生によるワークショップを実施しました。さらに,エコミュージアム「浮羽まるごと博物館」(2013年度〜)に構想段階から関わり,そこから派生した「棚田まなび隊」(2014年度〜)の活動においても実践と運営の一端を担っています。

これらの活動は,研究の地域への還元とともに,それが地域の持続につながることを願って行なっているものです。この地区には棚田や茅葺民家や山村景観といった環境資産が豊富に存在します。この地区の行く末を考えたとき,これら「環境資産」の真の価値を理解し,それを護り活かしていくことが非常に大切になってくると考えています。

これまでの活動もそのような想いで進めてきましたが,大学を通しての活動には制度上の限界があり,より能動的かつ機敏に展開するためには,活動主体を大学外に組織する必要があると考え,これまで研究室の活動に協力いただいてきた自治体関係者や地域の方々にも呼びかけ,特定非営利活動法人の設立を企画しました。2019 年4 月から設立に向けて有志が協議を開始し,同年 7 月28日に設立総会を開催し,特定非営利活動法人新川田篭環境資産保全研究会を設立するに至りました。